研究概要 |
平成20年度は,本研究課題において最も重要な,干潟成分分布調査と底質プロテアーゼの関係を検討することであった。入念に予備実験を行ったことにより,プロテアーゼ活性測定法の検討とGPSを用いた生物分布調査が順調にすすみ,対象とした賀茂川過去干潟においてプロテアーゼ活性のコンターマップとアマモ,コアマモなどの優占種の生息分布図を作成することができた。さらに底質の有機炭素,窒素量とプロテアーゼ活性値の相関を検討した結果,土壌中の負荷有機物量とプロテアーゼ活性の間に統計的に有意な相関を認めることができた。さらにこの結果を踏まえ,土壌にタンパク質,脂肪酸,デンプンを負荷した結果,タンパク質を負荷した場合においてのみ,プロテアーゼ活性が好気的環境下において約3倍も増加することが明らかになった。 さらに本研究で開発した土壌プロテアーゼの電気泳動分離分析の結果,活性の増加に伴って特定のプロテアーゼが誘導されることを捉えることができた。以上の結果,土壌へのタンパク質の添加は,限定されたプロテアーゼ分泌を誘導する事実を証明することができた。 また本研究と並行して海洋の植物プランクトンの加水分解酵素の検出も行った。すなわち21種の植物プランクトンを培養した結果,培養液中にプロテアーゼ活性を認めることができた。さらに電気泳動的に複数のプロテアーゼの存在を認めることができた。 すなわち干潟には底質微生物のみならず,海洋水中の一次生産者にあたる植物プランクトンからもプロテアーゼが分泌され窒素代謝の始原となるタンパク質の加水分解がなされている実態を捉えることができた。 したがって本年度の成果は,今まで論じられてきた窒素循環代謝活動に,植物プランクトンの関与という新たな側面を提起することになったと言える。なおこの結果は複数の論文としてまとめており,その一方は現在投稿する段階にある。
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