研究概要 |
世界自然遺産であり原生自然が多い知床半島であるが,半島全域に砂防・治山ダムが300基以上存在し,イワナ類の一種オショロコマの生息場所環境が劣化している.特に,本研究では,これらが地球温暖化による水温上昇に拍車をかけるとする予測の元で調査を行ってきた.1999年より,長期にわたる温度環境攪乱がオショロコマに及ぼす影響を明らかにし,将来的に同種の保全に資することを目標に据え,半島両岸の河川群で本種の個体数密度を定量化し,各河川の夏季水温の観測,個体数密度との関係について検討してきた. 今年度の研究の結果,昇温が起こりやすい特定河川では,横断構造物(落差工)が連続しているほど大きな昇温が引き起こされていることが明らかにされた.100m程度の区間内に落差工が複数ある場合,各区間では河床勾配が低くなり,流速が低下することも昇温の要因となっていると思われる.50m程度の区間内で,落差工がある場合にはおよそ0.2℃程度の昇温が認められた.これらのことから,ダムが多いのみならず,近接して施工された連続落差工群はオショロコマの密度の低下を招くことが示唆された.また,これらの河川群では若齢年級群も欠落しやすい.特に,盛夏期にはこれら若齢小型個体がもっとも激しい温度ストレスを受けると予想されることから,移動阻害が引き起こされている可能性がある.すなわち,大型個体は温度レフュージを求めて移動が可能であっても,小型個体は分散できないまま死に至るケースが考えられる.
|