研究概要 |
地球温暖化に伴う水温の上昇が淡水魚類に及ぼす影響に関する研究は,主に1990年代に入ってから盛んに行われてきた.これらの研究の多くは,対象魚種の水温に対する生理反応データに基づく分布変化予測と生物エネルギーモデルを用いた個体群動態の予測に大別される.しかし,実際には,温暖化が淡水魚類に及ぼす影響は,温度上昇そのものだけでなく,他の局所的環境撹乱因子との複合効果などを通じてもたらされると考えられる.温暖化に対する淡水魚類群集の反応に関する十分に適正な予測をより発展させるために,近年知床半島で顕在化しつつある砂防ダム群による局所的温暖化の影響評価を行った.知床半島の諸河川にはオショロコマをはじめとする河川性サケ科魚類が生息する.これらは冷水性であり,本地域は北半球の自然分布の南限付近であることから,温暖化による水温上昇が憂慮される. 調査を行った37河川には合計192基の治山・砂防ダムが設置されており,総流路延長距離あたりのダム密度がもっとも高かったオペケプ川では4.6基/kmであった.このような河川では,オショロコマの生息密度は0.1-0.2個体/m^2程度の著しく低いレベルであった.オショロコマの採餌活性は水温16度以上で低下するが,複数の河川ではこの温度を超える日が相当数確認された.このような河川群には流程(特に上流域)にダムが多く,水温上昇が大きく,オショロコマの生息可能温度を超えていたことが明らかにされた.今後,河畔林によって鬱閉度を高くするなどの技術的工夫やスリット式の砂防ダムの一層の普及が望まれる.
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