森林総合研究所の川越森林気象観測施設において、過去に得られた渦相関フラックスデータ等を解析した。その結果、この観測サイトにおいては、冬季には地表面熱収支が閉じる場合が多いが、夏季の日中に大幅なインバランスが生じる傾向があることが明らかとなった。その原因として、当サイトにおいては、地表面熱収支を構成する各項目のうち、夏季に卓越する潜熱フラックスが渦相関法によって過小に評価されていることが分かった。 一方、熱収支インバランスが生じる原因を究明するため、大気境界層における乱流や熱・水蒸気等の動きを詳細に再現する数値モデル(Large Eddy Simulation model)を開発し、地表面付近の乱流フラックスに関する解析を行った。その結果、地表面付近に長時間持続する組織的な流れの構造(対流セル等)ができると、その流れ構造による輸送量は、1地点での計測に基づく渦相関法ではとらえることができず、結果としてフラックスの大きさを過小に評価する傾向があることが明らかとなった。この傾向は、渦相関法の平均時間が短いときほど顕著に現れ、平均時間を長くするにつれて過小評価の確率と過大評価の確率の差が小さくなった。また、数値シミュレーションの結果からはフラックスが逆に過大評価される可能性もかなり大きいことが示され、世界中のほとんどの観測サイトで過小評価になることが問題になっているという観測事実と整合しない場合もあった。今後、この問題も含め、熱収支インバランス現象のメカニズムに関してさらに研究を進める必要がある。
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