本研究課題は、1968年に中部太平洋で採取された歴史的試料中の炭素14濃度を測定することにより、1968年当時の当該海域における核実験起源炭素14蓄積量を明らかにすることを目的とする。試料は海水中の溶存無機態炭素を炭酸ストロンチウムの形で固定されたものであり、適当な試料の前処理、加速器質量分析計を用いた高感度分析によって、試料採取当時の海水中の炭素14濃度を再現することが期待される。この歴史的試料の炭素14濃度から計算される核実験起源炭素14量に、他の報告データを加えて1960年代の太平洋における核実験起源炭素14蓄積量の復元を試みる。 平成19年度は、(1)炭酸ストロンチウム沈殿の前処理方法の検討、および(2)実試料の前処理、加速器質量分析による炭素14同位体比を測定した。(1)の炭酸ストロンチウム沈殿の前処理方法の検討の結果、処理方法として従来どおりの酸添加による湿式法を採用した。その結果を踏まえ、(2)の実試料の前処理、加速器質量分析による炭素14測定を行い、1968年の中部南太平洋亜寒帯海域における1観測点で炭素14の鉛直分布を再現した。 本研究で得られた結果を、1973年にほぼ同一海域で測定された結果(GE0SECS Stn.293)と比較した。その結果、中部南太平洋亜寒帯海域において、1968年から1973年のわずか5年間に間に核実験起源炭素14が海洋表面から水深数百mまで急速に広がっている様子が明らかになった。海洋における核実験起源炭素14の観測データは非常に限られているため、上記結果は海洋における核実験起源炭素14蓄積量、および大気海洋二酸化炭素ガス交換に関する新たな知見を与えるものである。平成20年度も引き続き、実試料の前処理・分析を行い、1960年代の太平洋における核実験起源炭素14蓄積量の復元を復元する。
|