前年度までの結果から、正常な間質細胞と上皮細胞間のクロストークによる放射線誘発DNA損傷軽減作用が明らかになった。この作用は傍分泌を介した何らかの液性因子によるものであると考えられ、本年度はそのメカニズムをより詳細に検討した。 まず、細胞膜透過性の活性酸素種検出試薬であるH_2DCFDAを用いたところ、H_2O_2存在下で条件培地での処理は有意に活性酸素種を減少させる事が分かった。また、低酸素条件下(<2%)では条件培地によるDNA保護効果が見られなくなり、これらを併せて考えると活性酸素種がこの現象に関与している事が示唆された。NOスカベンジャーであるPTIOを用いた実験からは、本現象におけるNOの関与は否定的であった。次に、目的の液性因子の性状をより詳細に検討するために、トリプシン処理、熱処理後のDNA保護効果を解析した。するとどちらの処理でも保護効果は消失し、この液性因子はタンパク質である事が示唆された。正常甲状腺細胞で条件付けされた培地を正常線維芽細胞に加えると線維芽細胞の増殖は促進され、これも放射線保護効果に影響している可能性が考えられた。さらに、Affymetrix Human Genome U133Plus2.0Arrayを用い、正常甲状腺細胞と正常線維芽細胞の遺伝子発現パターンを網羅的に検討した。今までの実験結果から、目的の分子は何らかのタンパク質液性因子であると推測し、データ解析より21の発現量が大きく異なっているサイトカイン遺伝子を同定した。癌細胞から分泌される因子ではこの放射線保護効果は見られない事から、本研究の成果は放射線治療時の正常組織に対する保護作用の確立に繋がると考えられる。
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