本研究は、ウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)の共生状態の稚サンゴを用いて、高温ストレスによる白化(褐虫藻密度の減少)と、化学物質への曝露のストレスによる白化における分子機構の共通性を探ることを目的として行っている。平成19年6月初旬に沖縄県阿嘉島においてウスエダミドリイシの幼生を得て、さらにそれらを着底・変態させ、褐虫藻を感染させて共生状態の稚サンゴを作出した。対照群と以下に述べる4種の実験群のそれぞれに対し、それぞれ約400個体の稚サンゴを用意した。まず4群の稚サンゴに対し、高温処理(32℃、2日間)、DCMU(ジウロン)処理(10μg/L、10日間)、TBT-Cl(塩化トリブチルスズ)処理(1μg/L、7日間)、およびDDVP(ジクロルボス)処理(100μg/L、10日間)を行った。高温処理とTBT-Cl処理では、褐虫藻密度の顕著な減少が見られた。今回DDVP処理を行った稚サンゴでは目立った変化は観察されなかった。無処理の対照群、高温処理を行った群、およびTBT-ClおよびDCMU処理を行った全四群の稚サンゴからRNAを抽出し、それらを鋳型にして逆転写を行ってcDNAを調整し、HiCEP解析に供した。その結果、対照群と比較していずれかの処理により発現レベルが上昇すると推定されるmRNAを65種見出した。それらのうちの11種は、複数の処理で発現の変化を見せた。しかしながら現在までのところ、3種の処理すべてにおいて同様な発現の変化を起こす遺伝子は見つかっていない。高温処理とTBT処理の両方で発現が上昇するmRNAの一つは、高等動物のoxidative stress proteinに相同であった。今後はさらにこのようなストレス反応性mRNAの解析を続行し、サンゴのストレス応答および白化の分子機構の詳細を調べたい。
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