研究概要 |
今年度はダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin,TCDD)による骨毒性を解明するために研究をおこなった。出産1日目に体重kg当たり15μgのTCDDを経口的に投与した母マウスの母乳を介して仔マウスにTCDDを曝露した。検体を採取して骨代謝に関連する因子を組織学的、生化学的、分子生物学的に分析し、その発現機構を総合的に解析した。ダイオキシンの特徴的臨床所見は多尿、カルシウム(Ca)、リン(P)の排泄増加である。ところが血液中のCa濃度の変化は認められなかった。そこでCaの腸管からの吸収および腎臓での再吸収に及ぼすダイオキシンの影響を調べたところ、腎臓においてはCa再吸収に関与する遺伝子の発現を抑制が、小腸ではその反対に促進作用が見られた。二重X線吸収法によりダイオキシンは骨塩量、骨密度、皮質骨の厚さを有意に低下させることが分かった。骨の形態計測結果から類骨面積の著名な上昇が認められたのに対し、破骨細胞に関するパラメーターの変化は見られなかった。ダイオキシンによる石灰化への影響を特殊染色した脛骨を用いて顕微鏡下で画像解析を行った。内骨膜から皮質骨にかけて類骨細胞が石灰化した骨組織に著明に拡大・増加している所見が得られた。ダイオキシンによる類骨の増加は海綿骨でも明瞭に確認された。以上の結果からダイオキシンの骨毒性は骨芽細胞活性の活性阻害による可能性が強く示唆された。それを実証するために骨芽細胞が産生する骨形成マーカーの脛骨における遺伝子発現を調べると、骨形成マーカーの遺伝子発現をダイオキシンが有意に抑制することが明らかとなった。さらに、ダイオキシンがマウスの腎臓において活性型ビタミンD合成酵素である1α-ハイドロキシラーゼ遺伝子を活性化させることが明らかとなった。特徴的臨床所見血中のビタミンD濃度を測定したところ、ダイオキシン曝露マウスでは対照マウスと比べて2倍に達していたことからもダイオキシンによるビタミンD合成の活性化を裏付けた。
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