代表者はこれまで、ガラスビーズを充填した模擬土壌カラムに、ある種の界面活性剤水溶液を充填すると、トリクロロエチレン(TCE)のような有機塩素系溶剤の原液状態での下方浸透挙動が大きく変化することを明らかにしてきた。この現象は、洗浄剤を注入して土壌・地下水汚染を除去する工法の際に、汚染の下方への拡散につながる可能性がある。本課題では、この下方浸透性を支配する因子を抽出することを主たる目的としている。22年度は、 直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)、セチルトリメチルアンモニウム臭化物塩(CTMA)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(B35)の3種の界面活性剤が共存する場合のクロロホルムおよびジクロロメタンの下方浸透挙動を詳細に観察し、テトラクロレチレン、トリクロロエチレンでの結果と比較した。その結果、界面活性剤を含む場合でも含まない場合でも、ターゲットとする有機溶剤の下方浸透挙動は、溶剤の種類には依らないことが分かった。これは、これらの有機溶剤がいずれも有機塩素系であり、比重が1よりも大きく、その性質が類似しているためと考えられる。今後、塩素を含まない溶剤などで比較する必要があると考える。 また副次的な課題として、界面活性剤共存下でのクロロエチレン類の鉄粉による化学分解反応について、その反応速度と反応経路、さらにクロロエチレン類の鉄粉表面への吸着性について検討を加えた。クロロエチレン類の分解反応は、β脱離と水素化分解の2通りの経路があるが、クロロエチレン類の鉄粉表面への吸着量が大きく、且つ溶液内に溶解した水素ガス濃度が高い場合に、水素化分解反応が進行することが明らかになった。水素化分解反応は反応生成物として毒性のより高い低次クロロエチレン類を発生させることから、系内の反応条件を制御することで、分解反応時の安全性を高めることができると考えられる。
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