研究概要 |
本研究では固体核磁気共鳴(NMR)を用いてタンパク結晶の水和水のダイナミクスを詳細に解析しタンパク質結晶の構造や物性との関係を明らかにすることを目指している。今年度は,試料のマジック角回転(MAS)を用いた常磁性試料の重水素NMRスペクトルのシミュレーション解析法を開発した。この重水素のMAS-NMRスペクトルのシミュレーション解析により,これまで分子ダイナミクスの情報を得るのが困難であった常磁性試料について,広いダイナミックレンジで分子運動の情報を得ることが可能になった。この結果を欧文誌Journal of Physical Chemistry Aに発表した。また,タンパク質結晶中の複雑な非常に遅い水和水のダイナミクスを解析するために,重水素NMRの二次元交換スペクトルのシミュレーション解析法を開発した。この結果を欧文誌Chemical Physicsに発表した。異なる水和量の卵白リゾチーム結晶を作り,重水素NMRのスピンー格子緩和時間(T_1),広幅スペクトルおよびstimulated echoの測定を行い。リゾチーム結晶中の水和水の環境およびダイナミクスを解析した。NMRの解析により,タンパク質内に取り込まれ、制限された運動をしている水分子と室温付近でフリーローテーションを伴った速い運動をしている水分子が観測された。結晶の水和量の減少は室温で速い運動をしている水分子の減少を引き起こした。リゾチーム結晶は200K付近でガラス転移が起こることが知られているが,室温で速い運動をしている水分子の凍結がガラス転移と密接に関係していることがわかった。これらの結果を第88回目本化学会春季年会(2008年3月立教大学池袋キャンパス)で発表した。
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