研究概要 |
本研究では,X線光電子分光法(XPS)を用いて,マトリックス中に埋め込まれたナノメートルサイズさらにはサブナノメートルサイズの超微粒子(以降それぞれ,「ナノ粒子」および「サブナノ粒子」とよぶ)のスペクトルを計測し,ナノ・サブナノ粒子特有のスペクトル形状から,深さ方向に対して,迅速かつ正確に,それらの粒子のサイズおよび粒子の存在状態(粒子と粒子周囲の欠陥との相互作用など)を評価する方法を確立することを目的とする。平成20年度では,前年度に導き出された平均粒子サイズとXPS 5dスペクトル幅の関係式を,マトリックス中に埋め込まれたナノ・サブナノ粒子のサイズ評価に適用した。 実験に使用したマトリックスはSiO_2およびAl_2O_3である。それらのマトリックス中にAuおよびAgイオンをイオン注入し,サブナノ・ナノ粒子をマトリックス中に作製した。生成した粒子の深さ方向のサイズ分布を,透過電子顕微鏡断面観察(XTEM)により測定した。XTEMでは,Auイオンの投影飛程に相当する深さ約150nmを中心として,±50nmの範囲に,1-5nmのAuナノ粒子が生成していることが確認できた。次に,同一試料に対して,低エネルギーArイオンビームスパッタリングによるXPS深さ方向分析を行い,深さ方向のAu濃度分布および5dスペクトル幅を測定した。その結果,Au濃度分布とXPS 5dスペクトル幅の間に,明確な相関が観察された。前年度に得られた平均粒径D(nm)と価電子帯5dスペクトル幅W(eV)の関係式D=1.33/(5.63-W)を適用して,深さ方向のサイズ分布を分析し,XTEMの結果とよく一致することが分かった。さらに,XTEMではAu粒子の観察が不可能であった深さ100nm以下の領域において,平均粒径0.6-0.8nmのサブナノ粒子の存在を明らかにすることができた。また,Agナノ粒子に対しては,サイズ評価のみならず,オージェパラメータを用いた状態分析を試み,酸化物マトリックス中のAgナノ粒子が,酸化されていないことを確認した。
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