通常は紫外線または可視光でしか起こらないフォトクロミック反応を赤外線で引き起こすことを目的に研究を行った。フォトクロミック材料としてはスピロベンゾピランのアルコール溶液を使用した。この色素溶液は透明であるが、紫外線を照射すると波長550nm付近を中心とする幅広い吸収帯が現れ、赤色に着色する。そして、550nm付近の緑色光を照射すると、元の無色状態に戻る。このようにフォトクロミック反応は光子エネルギーの大きい光を必要とするため、赤外線を可視光に変換する必要がある。本研究では、イッテルビウムとエルビウムを共添加したアップコンバージョン微粒子を用いて、赤外線から可視光への変換を行った。この微粒子は、波長900nm付近の赤外線光子を2個吸収して550nm付近の緑色光を発光する。発光波長がスピロベンゾピランの吸収ピークと一致しているので、効率よくフォトクロミズムを誘起できると予想した。 液体状態では取り扱いが難しくデバイス化に適さないので、フォトクロミック溶液とアップコンバージョン微粒子を混合した複合ポリマーを作製した。マトリクスとなるポリマーには、常温で容易に固化し、透明性の高い光硬化性アクリル使用した。アクリルの原液中にフォトクロミック溶液を混合し、アップコンバージョン微粒子を均一に分散させた後、青色ランプ光を照射することにより、複合ポリマーを作製した。この試料に、まず水銀ランプの紫外線(波長365nm)を照射すると、試料全体が赤色に着色した。そして、波長940nmの半導体レーザ光を照射すると、レーザビームが当たった所だけ脱色するのが見られた。この結果は、光通信などで使われる赤外線で可視光の透過を制御できることを示している。
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