これまで、走査トンネル顕微鏡(STM)探針による刺激で有機化合物の連鎖重合反応を局所的に誘起し、導電性高分子ナノワイヤーを作成する技術を開発してきた。すなわち、ジアセチレン化合物の自己集合膜をグラファイト基板上に作成し、その任意の一分子上でSTM探針により刺激を与えると、連鎖重合反応が誘起され、ポリジアセチレン化合物ナノワイヤーが生成することを見出してきた。本研究は、これまでの研究をさらに発展させるため、グラファイト以外の基板上で高分子ナノワイヤーを作成することを主な目的として、サファイアや二硫化モリブデンなどの絶縁体や半導体基板上でのジアセチレン化合物分子膜の作成と、そのSTM、AFMによる観察を行った。 また、ポリジアセチレンナノワイヤーの高分解能でのSPM観察に成功し、そこから基板上でのポリジアセチレンの構造に関して、従来の構造モデルとは異なる新たなモデルを考えることができた。 さらに、他の分子膜上にジアセチレン分子膜を作成しようという研究の過程で、フタロシアニン分子の1から5分子からなるナノクラスターが、ジアセチレン分子膜上に室温・大気中でも安定に存在できることを副産物的に見出した。そうした分子に向けて連鎖重合反応を誘起することに成功し、単分子デバイス実現に向けて興味深い結果を得ることができた。この結果に関しては、次の科学研究費補助金の研究テーマにつながり、今後さらに研究を展開させていく予定である。
|