マイクロ化学チップは、半導体の微細加工技術等を化学へ応用する形で発展して来た。そのため精密なチップが作られる反面、作製に掛かる時間や装置・設備のコストが大きくなる傾向にある。この点は、大量生産するチップの場合には無視できても、ユーザーが自ら設計したオリジナルなチップの場合には顕在化して来る問題である。そこで本研究では、ユーザーが自分で設計でき、かつ、自分で簡単に作製できるマイクロ化学チップを実現させる事と目指す。本年度は、下記の成果を得た。 マイクロ化学チップの設計図をインクジェットプリンターでガラス基板にプリントするだけでチップを作製するという筆者独自の技術に関して、従来は、チップの流路に流せる流体は水溶液に限られていたが、本年度は、キシレン、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、酢酸イソアミル、イオン液体など各種の有機溶剤を流せるようにした。その方法としては、基板をフルオロアルキル基を有するトリエトキシシランで処理し、撥水・撥油性を持たせ、かつ、基板表面を粗くする事で、有機溶剤を細長い形で(つまり、流路の形で)基板上に保持できるようにした。これによって、物理的な溝が無くても流路を形成できるので、プリンタで印刷するだけ、という極めて簡単な方法でマイクロ化学チップを作製できるようになった。 また、流体を連続的に流す方法についても本年度は検討した。その結果、2本のシリンジを備えたシリンジポンプを用い、流路の一端から流体を吸い出すと同時に、他の端から流体を入れる事で連続的に流体を流す事ができるようになった。
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