マイクロ化学チップは、化学的な分析や合成を小さなチップ上で行うもので、20年ほど前から国内外で盛んに研究されている。この分野はもともと半導体の微細加工技術を化学へ応用する形で発展してきたので、精密なチップが作製できる反面、作製にかかる時間や装置・設備のコストが大きくなる傾向にある。そのため、エンドユーザーが自らチップを設計し、自ら作製するのは非常に困難である。そこで本研究では、マイクロ化学チップの設計図をパソコンで描き、それをインクジェットプリンターでガラス基板にプリントするだけでチップを作製するという独自な技術の開発を行っている。 昨年度までに、水のほか各種の有機溶剤(キシレンなど非極性溶媒やジメチルスルホキシドなど極性溶媒を含む)をチップ上で流せるようになったが、本年度は、それらを流す流路を組み合わせて、有機溶媒と水との界面を形成させることに取り組んだ。その結果、水とキシレンの流路を数センチの長さに亘って安定に接合させることができるようになった。このような界面は、液-液抽出や水洗、相間移動触媒を利用した有機合成などに利用できる可能性があり、有用なものである。また、このような界面を形成させる方法については新たな方法論が必要であったが、それを考案し、さらに、それについての理論的な裏付けも行った。形成された界面は、有機相、水相ともに流動させた状態でもある程度の時間は保てたが、長時間経過すると界面が乱れてしまった。今後、更なる検討が必要である。
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