「単一分子内多重トンネル接合系の実現」のため、当初計画に基づき「高信頼性単一分子I-V計測技術」に最適化した分子群の開発を実施した。得られた成果は以下の通り。[1]当初1-10mn長であった分子構築ブロック群を、1-40nm長クラスにまで拡張した。これにより、110nm長までの絶縁被覆型オリゴチオフェン(288量体)の逐次合成に成功した。即ち、一般に精密加工が困難とされるサイズ領域(10-100nm)全域にわたる機能システムを、逐次ボトムアップ型技法で「原子一個の過不足もなく」作製可能なことを例証できた。[2]在来研究(1-2nm)よりも格段に広いサイズ範囲における分子鎖長-伝導度依存性を明らかにするため、一連の被計測分子群を順次作製し(鎖長:1-9nm;stepbylnm)、その単一分子伝導度をSTM-ブレイクジャンクション法により計測した(阪大・多田G)。結果、理論予想されていた「鎖長増加に伴うトンネル伝導からホッピング伝導への転移(鎖長:〜7nm)」を初めて確認できた。これは大型分子内の単一電子移動の合目的制御を行なう上で基盤となる定量的知見である。現在、分子鎖中に各種量子井戸を導入した系についても解析を進めている。[3]ウエットプロセスによる大型分子の基板上への精密配置、及びその状態での実空間単一分子観測の技術を確立するため、10nm級大型分子鎖をパルスジェット法により清浄金属基板上に配置し、その配座解析を高分解能STM観測により実施した(横市大・横山G)。結果、立体障害のため存在比の小さいとされてきたs-cis型配座が、理論計算や真空蒸着法の実験結果から予想されるよりも顕著に多く存在することが判明した。この要因は「溶媒和効果」と推定され、この知見を元に溶液中での分子鎖内配座制御に留意した新規分子の開発をスタートさせた。
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