嫌悪施設立地による資産価値低下リスクの補償を、不動産デリバティブを用いて効率的に行うスキームを構築するため、本研究は次の3点について明らかにすることを目的としている。 1、リスク評価方法の実証:将来の資産価値の確率分布に基づくリスク評価手法が、複数地域においても適用可能であることを実証するとともに、地域間での違いを明らかにする。 2、不動産デリバティブ市場の現状と展望:英国市場を調査して、参加者・取引内容・取引規模・用いられる技術などを明らかにし、補償効率化のために活用可能なデリバティブを検討する。 3、補償スキームの構築:研究目的1及び2の結果に基づき可能な補償スキームを提示して、補償額の軽減面と補償を行う側のリスク管理面における効果を評価するとともに、ヒアリング調査によりその実現可能性を検討する。 上記研究目的(1)について、平成20年度は英国都市圏における分析可能性を検討したが、研究代表者が既に首都圏で行った評価に必要なデータのうち幾つかを得ることができず、英国を対象として同等の分析を行うことが困難であることが分かった。そのため、平成21年度は対象を国内の近畿圏と中部圏に絞り、首都圏で用いたリスク評価手法を適用して地域間の比較を行う。また、研究目的(2)については、国際学術会議(European Real Estate Society)における成果発表を行って多くの研究者からのフィードバックを得るとともに、それらを踏まえて補償効率化のために活用可能なデリバティブを検討した成果を研究論文として麗澤経済研究に発表した。最後に、研究目的(3)については、英国を中心とした不動産デリバティブの実務家・研究者との意見交換を行い、新たな活用方法として多くの関心を得た。
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