研究概要 |
昨年度の続く更なる調査から,建設分野における災害発生要因は「転落・墜落」が今日においても最多であること,その内訳をみると法規制にもかかわらず物理的対策を取りにくい「窓・階段・開口部・床の端から」・「屋根・屋上から」・「足場から」の上位3位で全体の約4割を占めていることなどが判明した。そこで,今年度は施工行為のうち不可欠であり,且つ転落事故が多く発生している階段昇降を対象とした実験を行うこととし,それに先立ち実験条件設定のための調査および予備実験を行った。まず,25件の文献調査では,実験計画の策定にあたり不可欠となる昇降速度・踏面寸法・蹴上寸法の表記の有無を重点調査項目とした。続いて,加速度計を装着した被験者を仕様の異なる数種の外階段において昇降させ,昇降速度と段差(蹴上げ寸法差)を変化させた実験を感性評価と併せて行なった。その結果,実験対象は「踏面150〜300mm,蹴上150〜230mmの階段」とし,昇降速度は「ストライド時間0.5〜1.7秒で0.1秒刻み」とした。実験はシリーズ1(昇降速度変化)とシリーズ2(蹴上げ寸法変化)とから成る。小型三次元加速度計を臍・膝・足首に装着し加速度波形を得た。得られた加速度波形から,物理量としての加速度の振幅(身体にかかる力)・フラクタル次元(身体の安定性)・ゆらぎ値(変化の急激性と予測の難易)を求め,感性評価との比較検討を行なった。その結果,災害発生防止のためには適切な昇降速度があること,ならびに蹴上げ寸法差よりも昇降速度のほうが重要であることなどが明らかとなった。さらに,安全性確保からみた作業環境の評価手法を提案し,本実験で得られた結果を対象に同手法に基づく評価を行った。その結果同手法の有効性を示唆する結果が得られた。なお,評価手法の有効性の確認のためには,他の施工行為についての同様な実験を行うことが必要である。
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