研究概要 |
ケモカインファミリーは遺伝子重複を繰り返して急速に進化していることが知られている.我々はその進化プロセス解明の-環として,カニクイザルのケモカインCXCL1L遺伝子について解析を進めてきた.CXCL1L遺伝子は大部分の霊長類では欠失を伴う偽遺伝子であるのに対して,旧世界ザルのカニクイザルやアカゲザルでは欠失は見られず,転写ざれてmRNAを発現している.ところがこの遺伝子は不思議なことに,遺伝子の最終エクソンである第4エクソン・コード領域が存在するとタンパク質が合成ざれない.おそらく翻訳レベルでタンパク質合成が抑剃されていると考えられ,まずその抑制に関わる領域の欠失ミュータントを作製して,解析した.その結果,第4エクソン・コード領域に由来する,G-末端領域10数アミノ酸残基が重要であることが判明した.次に,この抑制はmRNAのキャップ構造を要求するのかどうかを調べたが,必要としないことが分かった.またタンパク質合成は途中まで進行するが,その後にリボソームがmRNAから離脱し,タンパク質がほとんど合成ざれないことを示唆する結果も得られた.これらの結果より,CXCL1L遺伝子は進化の過程で塩基置換等によリタンパク質を合成できなくなったことから,旧世界ザル以外では偽遺伝子化したものと考えられた.これに対し,旧世界ザルでは転写される偽遺伝子の一種として存在しているとも考えられるが,CXCL1L遺伝子は選択的スプライシングにより,第4エクソンをもたいないmRNAも合成する.このmRNAは翻訳されてタンパク質を合成することから,CXCL1L遺伝子は他のいくつかのケモカイン遺伝子のように,3つのエクソンからなる旧世界ザル特異的なケモカイン遺伝子に変換ざれる途中の姿とも考えられた.
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