環境サイクルの変化に対して位相を時刻依存的に同調(前進または後退)させることは、概日時計のもつ必須機能のひとつである。概日時計の発振機構が分子レベルでかなり明らかにされているのにくらべて、位相調節機構に関しては解明が進んでいない。 哺乳類の脳内時計中枢である視交叉上核(SCN)由来の細胞株の概日リズムの位相は、forskolin刺激によって時刻依存的に前進もしくは後退することが知られている。この現象は、新たな遺伝子の転写及び翻訳が必要とされる、光刺激に対してSCNが示す位相変位応答と類似している。そこで本研究では、forskolinによりSCN由来細胞株の位相変位を誘導したときに、時刻特異的に発現変動を示すタンパク質の同定を、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動解析システムを使用した高解像度のプロテオーム解析により試みた。 その結果、観察した約4400個のタンパク質スポットのうち、約230個のスポットがforskolin刺激により発現量の変化を示した。質量分析による固定をおこなったところ、発現変動を示すタンパク質スポットは約50種類のタンパク質に対応することがわかった。これらのタンパク質の内訳は以下のようになった: 細胞骨格系、情報伝達系、代謝系酵素、タンパク質分解系、タンパク合成系、膜輸送系、ヒートショックタンパク質、抗酸化系など。 現在は、siRNAを用いたRNA1法により、上記タンパク質の機能阻害が概日時計の制御機構(概日リズムの振幅や周期、位相変位応答)に与える影響を観察している。そして今後は、これらの実験結果に基づき、細胞レベルでの概日リズム形成に機能を有することが予測される因子についてさらなる機能解析を進め、概日時計の時刻同調機構の解明を目指す。
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