研究課題
約5億年前に分化した現存するもっとも原始的な脊椎動物である無顎類(円口類)のヤツメウナギは大型の魚類や海棲ほ乳類に外寄生し、一対の発達した口腔腺(buccal glands)から血液凝固阻止因子を分泌、吸血することが知られている。このことは1927年にScience誌に報告され,魚類学の教科書にもかならず記載されているが、奇妙なことに、その本体はまったく研究されていない。我々は日本産のカワヤツメ(Lethenteron japonicum)の口腔腺分泌液を調べ、やはりヒトの血液凝固時間を延ばす作用があることを見いだした。また、タンパク成分をゲル濾過により分離し、分子量16万の血清アルブミンと相同なタンパクと分子量2万5千のタンパクが主成分であることを見いだした。さらに強い青色の蛍光を示す酸性の低分子が多量に含まれることを見いだした。本年度の研究では、まず、分子量2万5千のタンパクの化学構造をペプチドの配列分析によりほぼ75%を決定し、全体の構造を口腔腺の全RNAからのcDNAクローニングにより明らかにした。その結果、これが蛇毒などは虫類毒に見られるCRISP(cysteine-rich secretory protein)ファミリーに属するタンパクであることがわかった。特にメキシコ毒トカゲの毒成分であるリアノジン受容体チャネルのプロッカーと相同性が高いことが示された。ラット尾動脈平滑筋の小片をもちいた筋収縮阻害実験の結果、このタンパクはリアノジン受容体の阻害活性は無く、電位作動性のLタイプカルシウムチャネルのブロックにより、血管の平滑筋収縮を阻害する新しいカルシウムチャネル阻害タンパクであることが明らかになった。これは血管収縮による宿主の止血反応を抑制して吸血を容易にしているものと推定された。ホモロジーモデリングによる立体構造は蛇毒CRISPと類似するが、ヤツメCRISPには多くの挿入配列があり、これがループアウトしてチャネル阻害特異性を決めていることが示唆される。
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Biochemical and Biophysical Research Communica-tions 358
ページ: 35-40