研究概要 |
生物発光を行うWatasenia scintillansの発光機構の解明およびその応用を目的に研究を行い以下の成果を得た。これまで不安定で保存および抽出が不可能であった発光関連酵素の安定化に成功し,さらには発光器官からの発光関連酵素の抽出および部分精製に成功した。ここで得たATP依存の発光関連酵素をもちいて,以下の発光反応の特性を得た。(1)本発光は発光基質coelenterazine disulfate,ATP,Mgイオンの濃度に強く依存する。(2)発光反応の最適温度は,5℃であり,Wataseniaが棲息する海水温とよい相関がある。(3)coelenterazine disulfateの量子収率は0.36であり,生物発光において蛍についで高い量子収率である。(4)16種のcoelenterazine disulfate類延体を化学合成し,それらの発光を調べた結果,きわめて高い基質特異性があることが判明した。(5)Wataseniaの生物発光スペクトル,coelenterazine disulfateの化学発光スペクトル,coelenteramide disulfateの蛍光スペクトルなどの解析より,発光体はcoelenteramide disulfateのアミドアニオンである。(6)発光反応よりAMPが生成されないことが判明し,これまでに提唱された発光反応の鍵中間体であるadenyl coelenterazine disulfateの存在は否定された。発光反応において,ATPはcoelenterazine disulfateとは反応せず,発光関連酵素と反応し酵素を活性化していることが示された。以上の成果は,未解明であるWataseniaの生物発光の発光発現機構の解明を進める上において,重要な知見を与えた。
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