研究課題
ミコール酸転移酵素(Ag85)の性質を更に詳しく調べた。Ag85は基質としてtrehalose monomycolate (TMM)のみが存在する時、trehalose dimycolate (TDM)を生成するが、ここにglucoseが共存するとglucose monomycolate (GMM)を生成するようになる。GMMの生成は菌が生理的濃度のglucoseに暴露されると起こり始め、生育環境のglucose濃度が維持されれば少なくとも数日にわたって増加していくが、一方TDMは減少する。GMMとTDMはよく似た構造をもつが生物活性は大きく異なる。TDMが強い自然免疫活性化能を有し個体に好酸球性炎症を起こすのに対し、GMMは自然免疫をほとんど活性化せずCD1を介した獲得免疫を誘導する。即ち菌のTDMからGMMへの置換は宿主自然免疫系からの「回避」であり、これに対して宿主は新たに合成されたGMMを標的としてCD1免疫応答で対抗するようになったと解釈できる。GMMを新しい脂質ワクチンの候補と捉えると、GMM特異的Ag85があれば有用であると考えた。Mycobacterium leprae (Mle)はTDMをほとんど持たない菌として知られる一方、本菌の感染によりGMM特異的T細胞が誘導される。そこでMle Ag85にGMM特異的産生機構があるではないかと考え、M. aviumのAg85 (Mav Ag85)と比較しながら、それらの性質を検討した。その結果、Mle Ag85はTMMのミコール酸部分を結合し難く設計されておりTDM、GMMともに生成能はMav Ag85より低いが、ミコール酸転移能やミコール酸を受け取る側の基質特異性はMav Ag85とかわることがない事がわかった。これは期待していた結果ではなかったが、この研究を通じてAg85によるドナー基質の利用機構を明らかにする事ができた。
すべて 2008 その他
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http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/SugitaLab.html