本研究はマイコバクテリアのミコール酸転移酵素を使い、試験管の中で様々な生理活性糖脂質を作り出す事を目的とした。これまでの検討から、本酵素は6位に水酸基をもつ単糖に効率よくミコール酸を付加できる事がわかった。酵素としては鳥型結核菌及びらい菌由来のミコール酸転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させた組換え酵素を使ったが、それらの性質を調べているうちに、らい菌酵素が長鎖のミコール酸基質を排除する様に設計されている事を見いだし、らい菌病原性に深く関わる情報を論文として公表することができた。両酵素はこの点を除いてほぼ同様の性質を示したが、鳥型結核菌由来酵素の方が収量が良かったので以降使用した。これらの事をふまえ、本酵素が二糖或は三糖にミコール酸を付加できるか検討した。糖の種類はマイコバクテリア細胞壁にあるアラビノース多糖体に注目し、アラビノビオースとアラビノトリオースを用いた。本酵素はアラビノースとアラビノビオースにはミコール酸を付加する事ができたが、1-5結合でつながったアラビノトリオースにはミコール酸を付加しなかった。マイコバクテリアでミコール酸は、非常に複雑な構造をしているアラビノース多糖体に結合した状態で存在する。それ故菌から単糖或は二糖にミコール酸がついた糖脂質を純粋に取り出す事は非常に難しい。本研究ではそれらを試験管内で作り出すことに成功した。次に、それらを精製して生物活性を調べた。アレルギーを惹起するT細胞の誘導に関与する、樹状細胞上の表面分子の発現をマウス骨髄から誘導した細胞を使って調べてみると、アラビノビオース、次いでアラビノースを頭部にもつミコール酸糖脂質で発現の抑制を示唆する結果を得た。よってこれらの糖脂質は抗アレルギー活性をもつ可能性が示唆された。
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