本年度はヒトコンドロモジュリン-I(hChM-I)の生物活性とドメイン構造を明らかにするための、組換えヒトChondromodulin-Iタンパク質を無血清条件下に発現させて簡便精製を行なった。このために、(成熟分泌型に相当する)hChM-I前駆体のGlu215-Val334のN-末端にFLAGタグを付加した組換え蛋白をコードするDNA断片をpCAGGS発現ベクターに組込んで、分泌シグナルの制御下にhChM-Iが分泌されるようにコンストラクトした。これを無血清条件下に293細胞に発現させ、FLAGアフィニティーによる簡易精製により組換え体を調製した。得られたhChM-Iの生物活性はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いたin vitro管腔形成アッセイを用いて検定し、従来法でCHO細胞から得られる組換え体CHO-hChM-Iと同等の生物活性を確認した。in vivoにおいてマウス角膜血管新生モデルでも血管新生抑制活性を確認することに成功した。次年度の活性ドメインの探索には、より簡便で定量的にも信頼性の高いバイオアッセイを必要とする。そこで、血管内皮細胞の細胞遊走に対する作用を詳細に検討した。その結果、hChM-IはVEGF-AによるHUVECのchemotactic migrationを著明に抑制した。100ng/mlのhChM-Iは、ほぼ1 μg/ml CHO-hChM-Iに匹敵する抑制活性を示した。この時、培養系に添加したhChM-Iは、VEGF-Aにより惹起される受容体VEGFR-2のリン酸化からERK1/2にいたるシグナル経路に影響を与えていなかった。また、HUVECの接着能に対したも影響を与えなかった。一方、タイムラプスによる細胞の移動軌跡の解析から、hChM-IはVEGF-Aに刺激されたHUVECの細胞運動にも著明な抑制作用を示すことが、明らかとなった。
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