前年度に確立した手法で調製した組換えヒトChondromodulin-I (rhChM-I)とその変異体を種々調製し部分生成を行って、その生物活性をVEGF-A刺激により活性化された血管内皮細胞の游走に対する阻害活性により検定した。すなわち、ChM-Iは8個のシステイン残基が含まれ、4個のジスルフィド結合を形成している。システイン残基をセリンに変異させることで、系統的なジスルフィド結合欠失変異体を作成した。その結果、ChM-Iの生物活性の発現には、ジスルフィド結合の存在が不可欠で、特に、N末端から5番目と6番目のシステイン残基間に形成されるジスルフィド結合が重要であることが明らかとなった。さらに、このジスルフィド結合の形成によってできる17アミノ酸残基のループ構造が重要であることが示唆されたので、この部分に相当する(ジスルフィド結合による)環状ペプチド部分を化学合成により作成した。解析の結果、この短いペプチド構造に血管内皮細胞の游走阻害活性を認めた。さらに、C-末端に存在する極めて疎水性の高い領域が、この環状構造部分の生物活性に補助的に作用するなどの、ドメイン構造と生物活性の相関を解明することができた。また、rhChM-I処理した血管内皮細胞ではストレスファイバー形成が阻害されていることが明らかとなった。これと関連して、VEGF-Aによって誘導される細胞運動の亢進応答も変化して、細胞の運動軌跡をビデオ撮影により解析したところ平均移動速度が低下すると共にならびに移動方向の転換頻度の上昇が認められた。また、このとき、rhChM-Iの添加は、VEGF-AによるVEGF受容体のリン酸化に始まりERK1/2のリン酸化に至るシグナル伝達経路自体への阻害効果を示さなかった。以上の結果は、血管内皮細胞には、ChM-Iに特異的なシグナル機構が存在することを示唆していた。
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