原核生物のNocardia属放線菌は、類縁のStreptomyces属細菌には見られない特異的な構造を持つ二次代謝産物を生産する。中でも、千葉大学真菌医学研究所の三上襄教授らにより取得されたジテルペン化合物brasilicardin Aは、ジテルペン骨格に芳香環、L-rhamnoseとアミノ酸誘導体が付加したユニークな構造を有し、その生理活性も特異であることから医薬のリード化合物として有用である。従って、その生合成遺伝子を取得・改変する事により新規な関連化合物の生産を誘導することは大変興味深い。そこでこれまでに、brasilicardin A生産菌であるN.brasiliensis IFM0406株から、ジテルペン化合物の共通出発原料であるゲラニルゲラニル2リン酸を生成する酵素(イソペンテニル2リン酸を4つ縮合し、炭素数20の直鎖状前駆体を生成する)遺伝子を取得し、その周辺領域を探索することにより、brasilicardin A生合成遺伝子クラスターと推定されるDNA断片を取得している。今回、この中の環化酵素遺伝子を破壊することにより、これら遺伝子群が実際にbrasilicardin Aの生産に関与することの証明を試みた。通常、放線菌の形質転換はプロトプラスト・PEG法で行われるが、N.brasiliensis IFM0406株はプロトプラスト化が困難なため接合による遺伝子導入と相同組換えによる遺伝子破壊を行った。DNA断片中、環化酵素遺伝子のみをthiostrepton耐性遺伝子で置換したのち接合ベクターに導入した。接合後thiostrepton耐性株を取得しPCRで確認した結果、何れの耐性株も予想通り環化酵素遺伝子のみがthiostrepton耐性遺伝子と置換されていた。そこでこれらの破壊株を培養した結果、brasilicardin Aの生産性は消失していたことから上記環化酵素遺伝子がbrasilicardin Aの生産に関与することを証明した。
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