本年度は徳島県、愛媛県、有明海、三重県、愛知県の干潟でオニノツノガイ科の巻貝類と吸虫類の調査を行った。有明海の9地点ではそれぞれ1-3種類の巻貝が確認されたが、特にクロヘナタリが5地点で確認された。これらの貝類の寄生虫感染率は0-60%で、4種類の吸虫が寄生していた。中でも緑川、塩田川河口のクロヘナタリはそれぞれ60%、20%と高い感染率であった。これらの事からクロヘナタリは、ヘナタリと同様に吸虫類の中間宿主として重要である事が明らかになった。また、生物群集は多様性ばかりでなく、貴重種の存在も重要である。そこで、多様性と同時に希少な種の存在も評価できる、多様性・希少性指数を考案した。この指数は、生息種数は少なくても貴重種が生息している地点では値が大きくなるという特徴がある。有明海で調査した9地点で、巻貝類と吸虫類の種類数によるこの指数を計算すると、田古里川の値が最も高く、次いで菊池川左岸、塩田川右岸であったが、菊池川右岸、六角川河口では非常に小さかった。この様に、巻貝類と寄生吸虫類の多様性・希少性指数は干潟環境の指標となり、対象種を更に広げれば、より総括的な干潟の環境評価指数として使用できると思われた。 次に、干潟の巻貝類の分布規定要因を探るため、全国13地点の底質の粒度分析を行った。田原市汐川では粒経0.075mm以下(シルト、粘土)で10%に達したが、長崎県太良町嫁川河口では0.3mmまで0%と、地点により粒度組成には大きな違いがあった。また、藤前干潟と和歌川河口は粒度組成が類似していたが、生息している巻貝類には大きな違いがあった。従って巻貝類の生息には底質の粒度だけではなく、その他の要因が大きく関与している事が確認された。
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