研究概要 |
中部琉球に分布するイボイモリは,その遺存固有性と特異な繁殖生態から,学術上貴重な両生類であるとされる。しかし,近年の生息環境の減少等により,多くの個体群でその存続が危ぶまれている。そこで,個体群内の遺伝的多様性,個体群間での遺伝的分化の程度や系統遺伝学的関係を明らかにし,今後の適切な保全に役立て行くために,今年度は沖縄諸島産の個体群について,ミトコンドリアDNAのチトクロームb, 12S rRNA, 16S rRNA遺伝子,tRNAの合計約2000塩基対を指標として分析を行った。その結果,本種は大きく沖縄島北部,本部半島,中部の個体群からなるクラスターと沖縄島南部と渡嘉敷の島個体群からなるクラスターに分かれることが明らかになった。前者の中で,本部半島,中部の個体群は地域内で単系統群を形成したのに対し,北部のものは単系統群を形成せず,比較的大きな遺伝的分化を示した。これは,北部の各々個体群が遺伝的多様性を維持した状態で存続してきていることを示唆するばかりでなく,北部の中に遺伝的に異なるいくつかの集団が存在する可能性も示唆している。一方,沖縄島南部は分析した2つの個体群で遺伝的変異が見られなかった。こうした遺伝的多様性の低さは,環境変化への適応力の低さを予想させるものでもあり,今後の適切な対策の必要性を強く示唆するものである。
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