研究概要 |
熊本県天草下島沿岸域に周年を通して定住するミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus)個体群を対象として,行動圏に関する情報を収集するために,有明海・橘湾沿岸域で漁業者にイルカの目撃の有無について聞き取り調査を行った.熊本県側では宇土半島西端から天草下島北西部にかけて,長崎県側では島原半島東岸北部から同半島西岸北部にかけてイルカの目撃例があり,ミナミハンドウイルカが有明海・橘湾の北中部海域まで広い範囲を利用する可能性が示唆された.吸盤装着型データロガーを用いて個体の行動追跡を試みたが,残念ながら,イルカが船につくことがほとんどなく,装着にはいたらなかった.標識再捕法を用いて個体数を推定するために背びれの写真撮影調査を実施した.過去の推定値と比較して個体数の増減は検出されなかった.聞き取り調査から得られた過去1年間に混獲されたイルカの数は6頭に達した.一部の混獲個体に関しては港に遺棄されていた尾びれからDNAを抽出,種同定を試みている.解剖した1頭の混獲個体は体長150cmの乳仔であった.この個体群では過去3頭の混獲個体の生物標本調査が実施されているが,いずれも体長190cm以下の若い個体であった.若齢個体の羅網率が高いのかもしれない.なお,石川県能登島周辺海域に2001年頃から定住しているミナミハンドウイルカ5頭を対象として背びれの写真撮影調査を実施したところ,そのうちの2頭は1994年に天草下島沿岸域で識別された個体であることが判明した.
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