西日本の潜在自然植生である照葉樹林は、古来、人為の撹乱を受け、現在ではわずかにしか残存しない。わずかに残存するこれらの森林を保全し、再生することは緊急の課題である。そのためには、照葉樹林の更新パターンを理解する必要がある。更新のパターンにおいて最も重要なものの一つは、環境変動に対して感受性の高い幼樹定着の成否である。照葉樹林の更新はギャップ形成による林内の光環境の変化に負うものが大きいと考えられるが、光は植物にとって重要な資源であるとともに、過剰な光は葉の機能を阻害し、成長や生残に影響を与える。そこで、栽培実験下で、ギャップ形成を模して被陰下から裸地に植物を移動させたときに、個葉および個体にどのような影響がもたらされるかを調べた。特に、強光への感受性が高くなる冬季と夏季に測定を行った。強光に対する潜在的な耐性は冬季の葉の方が高かった。しかし、植物を裸地に移動させたとき、夏季の葉は強光阻害を受けても2週間程度で回復した。一方、冬の葉は強光阻害を受け続け、樹種によっては落葉してしまった。落葉せずに残った葉は、春になり気温が上昇したら、強光阻害から回復した。最大光合成速度も同様に、強光阻害を強く受けている時はマイナスに転じていたが、強光阻害から回復したら、元の値程度に回復した。また、個体の成長は、夏に裸地に移動したものは、その時の葉が明るい環境に順化して、成長に貢献するようであったが、冬に移動したものは、強光ダメージでいったんは落葉し、その後に展葉した葉が成長に大きく貢献するようであった。 ギャップ形成による強光阻害の影響がが、個葉レベルでも個体レベルでも夏と冬で異なることが明らかになった。このことは、照葉樹林再生のための施業において重要な知見となる。
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