マイノリティとマジョリティは相対的なものであり、チェコやスロヴァキアにおいても、歴史上ある時期にマジョリティであったものがマイノリティ化したり、その逆になったりする歴史が存在した。しかし、「ロマ」は、国家的視点からは常にマイノリティであった。もちろん、ロマのコミュニティの中にガジョ(非ロマ)が入った場合は、ロマがマジョリティでありガジョがマイノリティになる。しかし、ロマ男性と結婚してロマ・コミュニティに入ったガジョ女性は、「妻」としてロマ・コミュニティに受け入れられ、特にマイノリティとして区別・差別されたわけではないようである。種々の回想から得られる彼女達の姿は、むしろ新しい知識・技術を持つコミュニティ内の人間として重宝されてきたことが伺われる。 これらは、本年度二度行ったチェコとスロヴァキアにおける史・資料収集のための海外調査により、明らかになった。最近のロマの現状に関する調査は、社会主義政権崩壊後のチェコスロヴァキア及びその後のチェコ、スロヴァキアにおいて活発に行われており、教育・生活改善のための公私のプロジェクトも盛んである。この10年ほど、その関係の出版物も非常に多い。ただ、そこで描かれている状況は、一部に教育・生活環境の好転は見られるものの、劇的な変化はみられない。 「ロマ・ジプシー」懇話会における19世紀ドイツ・ロマン主義文学におけるジプシー像についての検討を受け、「中東表象」研究会において、「ジプシー」表象とエジプト表象の関係について報告した。流浪の情熱の民という伝統的「ジプシー」観が、上述の現代のロマに関する報告にも現れることから、その根源を再検討する必要があると感じたからである。
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