「ロマ」は、世界各地に居住しているマイノリティである。「ロマ」を「ジプシー」の言い換えとすると、必ずしも一つのエスニック・グループとはいえなくなる。なぜなら、「ジプシー」は多種多様で、共通の特徴やアイデンティティがあるわけではないからである。また、「ジプシー」という集団の括りは、しばしば他者から貼られたレッテルであった。しかし、チェコやスロヴァキアに限定してみると、そこで生活している「ロマ」は、文化・言語・歴史などの共通性を持ち、共通のアイデンティティを持っており、一つのエスニック・グループといってよい存在である。従って、ロマの集団への帰属は、自己規定によるものと、他からのレッテル貼りによるものとが共存していることになる。近代的「民族」としての誕生も、他者との関係で創り出されるともいえるだろう。 さて、マイノリティは、数的に少数派であり、多数派より政治的・経済的・社会的に劣位であることが多いとされるが、この意味では、ロマは各地において、典型的なマイノリティであるといえる。本来、マイノリティとマジョリティは相対的なものであり、状況によってその関係は変化する。しかし、「ロマ」は常にマイノリティであった。様々なマイノリティが相対的に捉えられる中で、今後も「ロマ」は絶対的にマイノリティであり続けるのだろうか。現代スロヴァキアにおけるロマの教育問題からは、ロマはエスニックな意味だけでなく、社会的弱者という意味からもマイノリティとして扱われるべき存在であることがわかった。2008年に邦訳が出版されたマッキャンの小説『ゾリ』は、スロヴァキアを舞台にロマの女性詩人を主人公としている。このような作品が生まれたことは、非ロマの立場からロマに正面から取り組む文学的視点が育っていることを示している。
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