本研究は、民間治療に関わる、多様なタイプの医療従事者と知識・実践のなかから、ナショナルなレベルにおいて「民族医学」が、明確に制度化、公定化される過程を追いつつ、広範な知識・実践の何が取捨選択されていくかを明らかにすることを目的とし、以下の調査を行ってきた。 (1)「民族医学」の制度的確立の把握。具体的には、現政権で発行された公的新聞紙といえる「ミャンマーの光」から、「民族医学」関連の記事を抽出し、項目等をデータベース化している。現在は、まだ数年分ではあるが、これらのチェックを通じて以下が明らかになった。第一に、現在「民族医学」を管轄する「厚生省民族医学局」の動きが追え、全国的に幅広く活動をすると同時に、国策として力を入れていることなどが伺えた。第二に、社説、論説などを通じて、例えば、一般の人々に多い高血圧・糖尿病などの慢性病を、民族医学の知識の側から論じる論調が見られた。これらは、プライマリーケアの一環として民族医学を再利用し、新たに構築しようとする試みと位置づけられよう。 (2)「民族医学」における諸科目の確立の把握正規の教育機関(民族医学大学・民族医学専門学校)における教育体制の歴史、教育内容、テキスト編成の過程。今年度は、教育機関を訪問し、基本的な組織のあり方などを押さえた。近年大学として出発した「民族医学大学」は、国家の期待も高く、また学生の人気も高く、今後も注目する必要がある。また、政府公認の民族治療協会への調査を行い、協会設立に関わる歴史の聞き取りを始めた。これらは、次年度以降も継続の予定である。
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