韓国民主化後、タブーであったベトナム戦争中の韓国軍による民間人残虐事件に関し、進歩的新聞社や市民団体によって事実の掘り起しが行なわれたが、退役軍人会などからは強い反発も出た。本研究では、韓国側の戦争についての多様な語りを検討するとともに、ベトナム側では、当時の韓国軍駐屯地周辺各省において現地調査を行い、ベトナム側における国家から村までの各級の事件に対する語りを分析した。その結果、韓越双方とも、政治体制や外交方針、地域の違いなどによって、戦争の記憶の語り方に様々な相違があることが明らかになった。現ベトナム国家は被害国にもかかわらず、国家間関係を優先するあまり、虐殺の生き残りの人々の記憶の語りを抑圧しているのに対し、韓国の市民団体は世論が分裂する中でも、負の歴史を明るみに出して未来の平和のために生かすための努力を続け、ベトナムでは公定記憶にならない韓国軍の「負の過去」を記憶しようとしている。
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