今年度は、8月にツバルにおけるフィールドワークを実施した。8月は、地中から湧き出る海水による洪水被害のない時期であるが、人びとの環境破壊に関する関心、見解を聞くことができた。調査は首都フナフチにおいて行ったが、フナフチには各島からの移民が多く生活しており、土地所有者であるフナフチ島民のコミュニティと、土地を持たない他島出身者の移民コミュニティ双方で、環境破壊に対する適応戦術についての聞き取り調査を行った。ツバルには、「伝統」を意味するファイファインガ(faifainga)という概念があるが、それは、過去から現在まで様々な変化を受けて変遷してきたツバルの「やり方」すべてを指す概念ともなっている。そうした概念の柔軟さからも理解できるように、人々は、直面する自然および社会環境の破壊による変化を、西洋世界・キリスト教世界と接触することで生み出された変化と同位置において、「変遷する伝統」という視点から、変化前と変化後を概念の変形によって対処をしてきていることが分かった。また、それぞれのコミュニティ内での互助機能を調べることで、個人レベルよりもコミュニティレベルでの変化に対する対応を見出すことも出来た。 一方、国内においては、オセアニア研究者と研究打ち合わせを実施し、さんご礁島における環境破壊についての意見交換を行った。その中で、ツバルにおける「洪水被害」の中には、アメリカ軍の飛行場建設のための土地の掘削と関連しているものがあるという見解をめぐっても議論を行った。 また、環境破壊、温暖化、海面上昇に関する図書を購入したが、地球温暖化と海面上昇の関連を主張する立場とそれを批判する立場双方の意見を収集するように努めた。
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