本研究は代表者の単独で執行される海外調査が中心となる。初年度はタイ国境に接するクダー州におけるタイ寺院40カ所余りのうち27カ所の訪問調査を行った。マレーシア北部にタイ寺院が存在することはマレー半島東海岸のクランタン州の例などが知られているが、歴史的なタイ人村落の成立年代ではクダー州はクランタン州と同等に多く、また、タイ寺院と村落の数は圧倒して多い。しかし、タイ仏教の研究者でもそのタイ寺院と村落の実態については正確に把握されていないのが現状である。今年度の調査は半島の山間部に点在するタイ寺院とその村落の所在を確認するとともにその分布から地理的な村落の成立過程、あるいはタイ人村落の移住経路について調査を行った。また、現在華人との関わりが強くなりつつある、タイ寺院の改築においてタイ国からの出稼ぎ者が多く雇われていることなどが実態として見えてきた。調査はタイ語とマレー語でおこなわれ、古い資料の探索のために次年度以降はクダーの州立図書館やペナン州の公文書記録などの探査を必要とすると同時に、引き続きタイ寺院の所在確認と重要な地域においての詳細な聞き取り調査を遂行予定である。また、ペナン州においては、すでに華人社会と深い関わりのあるタイ人や南タイからの移住民(華人系・タイ系)あるいは ビルマ人など都市華人世界におけるタイ人コミュニティの事情について聞き取りを行った。
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