19年度に引き続き、海外調査に基づく基礎データ収集を中心とする研究を行った。今年度は、マレーシアクダー州、ペナン州におけるタイ仏教寺院、24箇所の訪問調査を行って、クダーのほぼ全域をカバーした。その結果タイ寺院の分布は、過去約300年以前からのタイ南部からの移民経路と深く係わっていることが確認できた。特に、クダー南部を河口部とし、クダー領内を蛇行しながら、半島東部へさかのぼるムダ側流域のタイ系寺院の分布はクダーの歴史的成立過程と係わる。この初期タイ系移民の居住地域はタイ語を話すムスリム集団の居住域とも重なり、大規模灌漑水路を必要としない、内陸の水稲作地域である。また、タイ仏教寺院は、少数派ブミプトラ(先住民)であるタイ系住民の拠点であると同時に、非ブミプトラである華人系住民の在家の宗教的行事の場ともなっており、その関係は非常に多様であり、少数箇所のサンプル調査では不十分なことが判明してきた。次年度はひきつづき現地のインタヴュー調査、資料調査をおこない、これらの寺院と地元コミュニティにおける関係を地域の歴史的側面、近年の開発による経済的な側面、マレーシアにおける仏教組織の扱いなどの面から解明する。なお、クダー州におけるタイ寺院の正確な所在地点については、次年度GPSによる確認を行うが、暫定的なものとしてオンライン上の地図を作成した。調査過程であるため、ur1はまだ、現時点では限定公開である。
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