研究概要 |
21年度は本調査の最終年度であり,調査としては前年度までに得られたデータの補完的データ収集と分析にあてた。 その結果,マレーシアクダー州の全タイ仏教寺院を踏破してそれぞれの基礎的データを収集した。このような調査は今までマレーシア国内でも試みられたことがないので,まずは寺院関係資料のデータベース化を行った。 またデータベースの他に,執筆予定の論考の中では以下のことを指摘する予定である。 1クダー州のタイ寺院の歴史と分布からタイ系移民がマレー半島中部以南に移植したのは少なくとも300年前と考えられること。 2.シャム(タイ)人集落はマレーシアのブミプトラではあるがマイノリティであるためいままでほとんど注目されなかった。また,かつてこの地域が「タイ」領であったことを理由に歴史資料や精査の対象にならずその分布には注目されなかったこと。 3.シャム系住民の分布調査によると,マレー系住民の大多数が標高4M以下の低湿地でのマレー式天水田sawa padiに集中しているのに対し、シャム系住民は標高が25m以上の内地の扇状地でタイ式感慨水田Naaを営んでいること。またシャム系住民とともに南タイから移住してきたマレームスリムもその近くに住みサムサムと呼ばれるタイ語話者村落があったこと。 4.以上からタイ系住民が南タイのパタルンなどの穀倉地域から300年程度昔から漸進的に「田をもとめて」クダー内陸に浸透しタイ語地名圏も同様にクダーには広がっていること。がわかった。 5.王族中心の歴史資料に記されないマクロな住民の記録と移動が地域研究と歴史資料の比較によって証明された。 6.タイ寺院の現在から,シャム系住民とマレーシア華人との宗教生活におけるつながり,納骨や寄進などでの接触が都市部で密になりつつあること。
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