研究課題/領域番号 |
19510257
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
赤嶺 淳 名古屋市立大学, 大学院・人間文化研究科, 准教授 (90336701)
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研究分担者 |
長津 一史 東洋大学, 社会学部, 准教授 (20324676)
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キーワード | オープン・アクセス / グローバル・コモンズ / 生物多様性保全 / 海産稀少資源 / エスノ・ネットワーク / 文化多様性保全 / バジャウ人 / 境界管理 |
研究概要 |
グローバル・コモンズとして生物多様性があげられ、その保全が急務の課題となっている。しかし、同様に生物多様性を維持させてきた文化多様性も保全されねばならい。本研究は、種や遺伝子レベルの保全ばかりが強調されかねない環境主義下の時代において、(少数)民族の稀少生態資源利用の歴史をふまえ、その今日的保全策を模索するものである。 代表者の赤嶺は、東南アジアから日本において300〜400年ほど利用されてきた乾燥ナマコが、2002年以来、野生生物の商業取引を規制するワシントン条約(CITES)で議論の対象となったことを契機とし、これまでインドネシア、フィリピン、日本におけるみずからのフィールドワーク経験をふまえ、コミュニティー主導の資源管理策を提案してきた。本研究において、ナマコが同条約の俎上にのぼるにいたった経緯を調査し、1990年代末に米国(クリントン政権時代)がうちだした「サンゴ礁保全に関する国家計画」(CRTF)が深く関与していることをあきらかにした。このことは、資源管理が科学的妥当性とは別の次元-政治的要因-によって左右されることを意味している。また、ナマコがCITESの俎上にのぼって以来、香港の乾燥ナマコ輸入商らが、資源管理にも積極的にコミットしようとする活動を調査し、ナマコなどのように市場が特定でき、かつ広域に流通する商品の資源管理には、流通業者らをまじえた関係者の協力が必要であることを指摘した。 分担者の長津は、スラウェシ海とジャワ海におけるバジャウ人社会でのフィールドワークをふまえ、バジャウ人たちが「伝統」的に漁獲対象としてきたナマコやフカヒレにくわえ、積極的にハタやシャコ、マグロといった、活魚・鮮魚に対象魚種を変化させている現象を指摘し、外部経済社会の変容に適応してバジャウ人の経済活動が領域・質ともに変化したことをあきらかにした。この柔軟性こそが海域世界にいきる人びとの「文化資源」であり、インドネシアが1990年代後半に経験した経済危機の最中に、むしろ、バジャウ人たちは経済活動を活発化した事例を報告した。このことから多様な生業活動を可能とする生態環境の維持のみみならず、生業活動を変化させつづけるためのネットワークの絶えまない組み替えが社会の存続には必要である、ということが指摘できる。
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