平成21年度は、昨年度までに十分に展開することができなかった農業女性の男性性言説に対する分析に着手し、昨年度までに行った『拓け満蒙』などの開拓プロバガンダ雑誌の分析をふまえつつ、処女会および大日本連合女子青年団関連資料、『家の光』、などの分析をおこなった。さらに、『愛国婦人』分析をはじめとする、これまで行ってきた都市新中間層女性の男性性言説に対する分析、あるいは『サラリーマン』分析などの都市新中間層男性の男性性言説に対する分析との比較検討もおこなった。これらの作業の結果、1、農村女性の男性性言説において、「家庭」の「明るさ」という概念が、男性性構築に重要な役割をもっていること2、「開拓」というものが農村の男性性に与えた影響に注目すべきであること3、農村の男性性言説にみられる「家庭」イデオロギーを、都市中間層に発したモダニズムの農村への単純な波及としてとらえるのではなく、都市中間層の男性性言説のもつ「家庭」イデオロギーでは説明できない側面に着目して、複数の対抗的男性性の構築プロセスとしてとらえる必要があること、などの点が明らかになった。 上記の結果は、植民地事業と男性性構築に関する研究蓄積が充実しているイギリスにおける成果を参照することによって、理論的な位置づけを深めることができるため、21年度はその収集作業に着手した。しかしながら21年度内には時間的・予算的な制約上、十分な収集にまでは至らなかったため、この点に関しては引き続き来年度以降の課題とする。
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