平成22年度は、昨年度までに展開した(1)『拓け満蒙』などの開拓プロパガンダ雑誌にみられる植民地開拓事業に関わった女性たちの男性性言説に対する分析、(2)処女会および大日本連合女子青年団関連資料、『家の光』、などの農業女性の男性性言説に対する分析、(3)『愛国婦人』分析をはじめとする、これまで行ってきた都市新中間層女性の男性性言説に対する分析、(4)『サラリーマン』分析などの都市新中間層男性の男性性言説に対する分析、それぞれから得られた結果について、植民地事業と男性性構築に関する研究蓄積が充実しているイギリスにおける成果を参照しつつ、比較検討作業をおこなった。その結果、1、植民地開拓事業および農村における女性の男性性言説において、「家庭」の「明るさ」という概念が、男性性構築に重要な役割をもっていること2、農村の男性性言説にみられる「家庭」イデオロギーは、都市中間層に発したモダニズムの農村への単純な波及としてとらえることはできない一方で、前述1で指摘したような女性の男性性言説が農村の男性性構築に及ぼした影響は、もっぱら男性の男性性言説に着目した既存の青年団研究では明らかになっていなかった部分であり、さらなる分析と考察が必要な重要性をもっていること3、とりわけ植民地事業の遂行にあたって大きな意味をもつ、自己犠牲的な男性性の構築にあたっては、イギリスなどにおいて敬度主義が果たした役割を、日本においても仏教・神道等が果たした可能性は捨てきれないものの、むしろ特定の個人に対する心酔が強くみられており、この点について今後の研究を通じてさらなる掘り下げが必要であること、などの点が明らかになった。
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