本年度は主にナショナリズムとジェンダーの関連について研究した。従来の国民を主権者あるいは市民権と等値する見方においては、女性は国民の範疇から排除されているとみなされていたが、国民をわれわれ/他者の区別にもとづくネイション(共同体)への帰属意識や成員としての一体感をもつ人たちと捉えれば、そこに男性と同様に女性も含まれてくる。ただし、ネイションにはジェンダーに特有の意味合いが強く内包されていて、男性と女性には異なる行為空間とアイデンティティが割り当てられ、それらは相補的に関連し、機能的にも補完しあっている。右派の市民的女性団体はネイションを自らの立脚点とし、男女の領域分離にもとづいてネイションのために自分たちが遂行しなければならないこと、という立場から運動した。ジェンダーの役割は、男性/女性、破壊/再建、殺戮/治療、戦闘/出産(国民的功績)、征服/維持、国家形成/民族形成(人種の純粋性および文化の保持)と捉えられた。「女性の領域」と「男性の領域」は、決して重なり合うことはないが、双方がなければ支配民族としてのドイツの優位、ドイツ文化やドイツ的アイデンティティの維持と強化は不可能であるとみなされた。 労働に関しては主に方法論の問題を検討し、経済ファクターだけでは説明できない文化によって形成される経済関係や階級関係に重要性について考察した。そのさい労働文化のなかでの性差の意味の重要性やその操作機能について研究する必要があるという認識に達した。
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