労働運動を男性性の構築と絡めた研究は存在しないため、労働運動の過程において、いかにジェンダーの差異化が行われ、行われ男性性/女性性が構築されていったのか注目する、という研究目的の記述に指摘にしたがい、本年度は主に労働運動が女性労働や女性労働者に対してどのような対応をし、それが歴史的にどう変化し、男性性/女性性の構築とどのようにかかわっているのかについて考察した。労働運動は初期には女性労働を「汚い」競争ととらえ、葉巻など男女ともに従事可能な労働分野でも男性が基幹労働を独占して女性は補助労働にしか就業させないようにし、また女性排除に熱意を燃やした。また労働運動の初期には女性排除と連動して女性の家庭外就業による「家族破壊」説を唱え、女性は「家庭」という言説を労働者に広めた。女性労働に賛成する運動家たちも、資本家による搾取を指摘するために女性の家庭外就業の家族に与える悪影響を強調するため、結果的に「女性は脆弱」、「女性は家庭」といった論調が構築されてしまった。ジェンターの観点をもたずに資本の搾取と行った階級の観点を前面に押し出すと、男女平等の主張は安価な女性労働を求める資本家の利益につながるといった主張から女性保護要求も出されることになる。ツェトキンの率いたプロレタリア女性運動も例外ではなく、保護法における女性労働のジェンター化推進という側面は背後に追いやられてしまった。
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