研究課題
本研究の目的は、長年の科挙制度の結果としての、男性による文字文化の偏重・独占という中国思想文化史において、近代に成立しながら、文化として認知されがたかった漫画というジャンル、ことに20世紀前半までにおいて稀少な女性漫画家、梁白波を含む1920年代から40年代にかけての前衛的漫画家たちの作品群に着目し、ジェンダー視角から分析してこれまでの研究を統合発展させることであった。5月の北京の五四運動90周年国際学術討論会での「五四期の女性主義言説とその資源」、6月のミュンヘン大学での「ヴェルサイユ講和条約後のアジア」国際学術会議における「ヴェルサイユ講和条約の中国ナショナリズムへの影響と都市ポピュラー・カルチャーとしての漫画」、8月の貴州での第三回中国近代社会史国際学術討論会における「近代漫画文化とその伝播」の各発表でレビューを得るとともに、あわせて北京・ミュンヘン・上海での史料収集をなしえた。本研究において、儒・道・仏教の混淆的な文化のありかたの初期グローバル化としてのコロニアルな異文化連鎖的、複数文化的形成の様相みせた近代における変容が、単に概念的なものではなく、メディアそしてジェンダー規範の変容と分かちがたく、「いかに」表現するかというところまで及び、結果として「伝統」の解釈そのものを変質させるという、そういう意味ではやはりラディカルな変化であったことをとらええた。その例証として、梁白波が成功作をすでに名をなして著名な愛人との「合作」で発表していたことをつきとめ、スキャンダルにまみれた様相を当時の新聞雑誌からも追跡し、深く傷つきながらモダンガールの漫画表象に託した梁白波の前衛的画風、政治的左派性とジェンダー・アイデンティティが日中戦争前後でそれぞれゆらぎながら、ついには力つきたものの、新しい生き方と作品を果敢に追求したというケースをあげうる。
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Trans-Humanities (Seoul, Korea) 11
ページ: 39-61