当該年度は18世紀における科学アカデミーについてのデータベースの完成と、いままでの調査のまとめ、および科学アカデミーの周辺での女性による科学翻訳について、海外の研究者との情報交換を行った。 データベースは、情報技術に長けた学生の研究補助により、17世紀半ばから設立された少数の科学アカデミーが、その後どのように欧米全体に拡大していったかがわかるように、ビジュアル化できる形で編集できた。これにより、18世紀における科学アカデミーの発展と一口に言われているが、それは主に18世紀後半のことであることがよくわかった。また、拡大状況の大きさにもかかわらず、女性を会員に認めているアカデミーはほとんどないこともより明確になった。 科学翻訳については、以前から共同で研究を続けている、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の研究者であるブリジット・ヴァン・チゲレン氏を日本に招聘して、特に氏の専門であるダルコンヴィル夫人について研究会および講演会を開催し、この女性とパリアカデミーとの関係についてさらに考察を深めることができた。 その他、イタリアの状況についても独自調査を行い、ここは他のヨーロッパ諸国と違って、女性の大学入学や学位取得、および科学アカデミー入会を認めるといった、独特の習慣が存在していたことが判明しに。ロシア帝国の状況についても、旧ソ連、現ロシアを含めて唯一の女性科学アカデミー総裁であるダーシコワ夫人の回想録を仔細に検討し、ロシアの状況はひとえに女帝であるエカテリーナ2世の権力によることが判明した。 以上のことより、欧米の科学アカデミーと一口に行っても、それぞれの国の事情が深く絡まり、一枚岩でなかったことがよくわかった。ただし、やはりジェンダー・バイアスの存在は大きく、イタリアにおいても女性の真の参加はなされていなかった。 こうしたことは、すでに旧来の成果報告書の形(長い冊子)の形でまとめた。しかし学術振興会の方では、この形での報告書は不要とのことなので、この報告書のないようについては、化学史学会の学会誌に順次発表していくことで、編集委員会の了解を得ている。
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