本研究の目的は、日本において近代的なジェンダー秩序の成立におけるマスメディアの機能を、戦前の大衆婦人雑誌を素材として明らかにすることである。研究期間を通じて、図書館などに完全な保存をみない大衆婦人雑誌と通俗小説などの古書史料を詳細な分析のために収集し確保に務めた上で以下の分析と調査をおこなった。 (1)グラフィック情報の分析:婦人雑誌の表紙の美人画をスキャナで電子情報化し、図像処理ソフトを用いて輪郭やポーズ、色調などのパターンを類型化する新しい分析方法を試みた。 (2)実用記事の分析:膨大な量の多様な実用記事の全体像とそこに内在している「規範」や「志向性」の構造を明らかにすべく、内容分析の手法を応用しながら分析をおこなった。 (3)通俗小説の分析:物語構造分析の手法を用いて物語の基本構造、モチーフ、登場人物の機能などの類型化をおこなった。戦前の流行作家・加藤武雄について、人物研究と作品分析を重ね合わせ、言説生産のプロセスを立体的な考察をすすめた。 (4)読者調査:戦前婦人雑誌の代表的な読者層である高等女学校卒の80歳以上の女性数名に聞き取り調査をおこない、読者による「意味づけ」をさぐった。 これらの分析を、申請者が過去におこなった別の側面からの分析とも統合し、近代の婦人雑誌を、複数の層で構成されるバーチャル空間として理論化する。こうした多面的分析の手法は、歴史社会学研究の進展に貢献するものと考える。
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