本研究は、(1)性・性愛をめぐる日本のコンテクストに関する実証研究、および(2)クィア・スタディーズの再文脈化、の2つの研究グループからなる。(1)性・性愛をめぐる日本のコンテクストに関する実証研究では、欧米において用いられる性・性愛に関する概念の日本における受容・変質・展望について、A)同性間の「結婚」に関する諸問題、B)性自認概念の変質、C)日本法における「性の権利」概念の変遷と展望、D)寛容論と男色の表象、E)男性間の性行為におけるbarebackingについて、の5つの観点から検討した。また、日本における性的マイノリティの生活についてのインタビュー調査および社会調査における方法論・解釈上の問題点について、F)非大都市圏におけるクィアの生活構造、G)「社会調査」をクィア的視点からの見直し、の観点から検討をおこなった。(2)クィア・スタディーズの再文脈化においては、クィア理論における空間概念について検討してきた。定期的に研究会を開き、ジェンダーやセクシュアリティと空間や時間のかかわりをクィアに読む解くための理論を探究してきた。特に、フランス哲学者であるリュス・イリガライの理論に立ち戻り、西洋の伝統的形而上学における性差および時間/空間に関する議論を重ねてきた。その過程で浮き彫りとなってきたのは、伝統的形而上学におけるジェンダー化された時間/空間の思考とappropriateness(適切性)/クィア(queerness)との関連性である。なお、活動の一環として5月に行われた女性学会年次大会にて「クィアと境界」を主題にパネルを実施した。
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