本研究の最終年度である本年度は、これまで国内外で収集した資料・文献・刊行物のデータベース化と総括的で綿密な分析の作業に取り組み、イギリスにおける近代フェミニズム思想の展開とセクシュアリティ観の諸関係について多角的に考察し、本研究の目的を達成した。具体的には、フェミニズムの言説の他に、反フェミニズムの言説、すなわち同時代の男性作家の批判的・嘲笑的言説も考察の対象にして個別的に検証し、国内外で口頭発表するとともに、論文を投稿した。日本バイロン協会談話会(平成21年6月27日、於愛知工業大学)における口頭発表では、「バイロンと『ブルーな』サッポー」という題で、反ブルーストッキングのバイロンの言説の中に18世紀末から19世紀初頭のサッポーの異性愛者化の文化・社会的傾向が色濃く反映されていることを論じた。第35回国際バイロン学会(平成21年9月9日、於ギリシャ・ミソロンギ市市民会館)では"Byron and Sappho"という題で、サッポーの受容史の観点から、バイロンが描くサッポーと同時代のブルーストッキングと呼ばれる女性作家たちの間のセクシュアリティの相違を明らかにした。また、メイソンのサッポー像に同時代の女性作家のフェミニズム思想とセクシュアリテリ観がかいま見られることを論じた論文「男装のサッポーとセクシュアリティーウィリアム・メイソンの抒情劇詩『サッポー』」は査読を経て、『十八世紀イギリス文学研究(第4号)-交渉する文化と言語』(日本ジョンソン協会編、平成22年5月末出版予定)に収められることになっている。
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