本研究は、セクシュアル・マイノリティの権利論・運動論と、フェミニズム理論におけるケアの倫理からえる家族論の架橋をめざし、そこから規範的な家族論を構築することを目的としている。 内容:平成22年度は、家族の営みを人間の条件の一つである「依存」と「他者からのケア」と捉えつつ、そこから新しい自由論を展開することを務めた。そこに、セクシュアル・マイノリティが求める新しい家族の形と、日々の家族という営みとのつながりを見いだした。 意義:近代の政治思想史を振り返りつつ、近代的な家族と主権国家のありようを、暴力装置の分配、すなわち、家長に対する家族構成員への絶対的支配権と、主権者が独占する暴力装置といった視点から、両者に共通点を見いだし、両者を共に批判することで、家族制度批判と近代的な主権国家の暴力性批判を結びつけた。 重要性:本研究は、従来政治思想史の分野では、ほとんど主題とさえならなかった家族論から、近代の政治思想史の規範である、自由や正義を問いなおすことで、日本において稀有な研究である。
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